割増賃金とは?クリニック経営者が知るべき賃金制度
クリニックでスタッフを雇っていると、患者ありきのサービス業ですからどうしても終業時間を過ぎても業務を行わければならない事があります。
「残業代」という言葉をよく耳にすると思いますが、「残業代」というのは、つまり法定時間外労働に対する割増賃金を指します。
クリニックスタッフは、自分の貰える給料が生きる糧ですのでかなり細かい部分まで気にします。とりわけ残業代は自分の労働力をクリニックに還元した証ですので、神経質になるポイントです。
残業代についてしっかり仕組みを理解していないと、スタッフとトラブルになり離職リスクとなる可能性があります。
今回はクリニックにおける割増賃金について詳しく解説していきます。
- 残業代や休日手当などの割増賃金が発生するケースについて知りたい
- 割増賃金の種類について知りたい
- 割増賃金の計算方法について知りたい
勤務医時代と違って、支給する側になるとしっかり分かっておくべき制度の1つですね!
クリニックにおける割増賃金のまとめ
- 割増賃金には時間外労働、休日労働、深夜労働がある。
- 割増率はそれぞれの時間数と組み合わせによって計算される。
- 割増賃金の計算元となる基礎賃金から除外する手当がある。
クリニックにおける割増賃金とはどのような時に支払えば良いのか?
割増賃金とは
いわゆる「残業手当」や「休日手当」が該当します。
労働基準法第37条によると、労働者が
- 法定労働時間を超えて労働した場合
- 法定休日に労働した場合
- 深夜時間帯に労働した場合
上記それぞれで、経営者に対して通常よりも多い賃金の支払いを義務付けるものです。これを総称して「割増賃金」と言います。
割増賃金をどのように払う?
通常の賃金に上乗せして支払います。
時間外労働、深夜労働は以下の様に単純な時間の話で、休日労働はそもそも休日に出勤して働くかどうかの話です。
1日8時間、週40時間を超える労働
22時-翌5時の労働
割増賃金は、「1時間あたりの基礎賃金×対象の労働時間数×各種割増率」で計算されます。
割増賃金の種類と計算方法
割増賃金の種類
①時間外労働
「1日8時間、週40時間」という法定労働時間を超える労働時間のことです。時間外労働の割増賃金の割増率は25%になり、時間外労働をした分に関しては、そのスタッフの通常の賃金の1.25倍以上を支払う必要があります。60時間を超えた場合は50%となり、1.5倍の割増賃金を支給する必要があります。
②法定休日労働
法定休日に勤務した場合、35%以上の割増賃金を支給する必要があります。労働基準法では週に1日以上休みを与える法定要件があり、それが法定休日になります。
③深夜労働
深夜(午後10時〜午前5時)に労働させた場合には25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
④法定外休日労働
労働契約上の休日が、法定外休日とされており、雇用契約や就業規則によって異なります。これらに割増賃金の支給義務はありません。ただし、時間外労働の対象にはなるため、25%を割増賃金として支払うケースが多いです。
「法定休日」と「法的外休日」の違い
法定休日とは、労働基準法に基づき、使用者(会社)が労働者に与えなければならない休日です。1週間に1日、または4週間を通じて4日の法定休日を付与することが義務付けられています。
法定休日以外に、使用者が独自に定めた休日を「所定休日(法定外休日)」といいます。法定休日に働いた場合は休日労働となりますが、所定休日に働いた場合は時間外労働などとして取り扱われます。
法定休日と所定休日の区別は、原則として労働契約または就業規則の定めに従います。定めがない場合は、対象期間(1週間または4週間)において後ろに位置する休日が順に法定休日となります。
使用者が労働者に休日労働を命じるためには、労働組合等との間で「36協定」を締結しなければなりません。36協定では休日労働に関するルールが定められ、使用者はその内容を遵守する必要があります。
休日労働には、通常の賃金に対して135%以上の割増賃金が発生します。なお、振替休日によってあらかじめ法定休日と労働日を入れ替えた場合には、休日労働の割増賃金が発生しません。これに対して、休日労働をした後で代休を取得した場合には、休日労働の割増賃金が発生します。
割増賃金の計算方法
労働の種類 | 労働時間 | 割増率 |
---|---|---|
時間外労働(法内残業)※就業規則上の所定労働時間は超えるが法定労働時間は超えない | 1日8時間、週40時間以内 | なし |
時間外労働(法外残業) | 1日8時間、週40時間を超える | 1.25倍 |
深夜労働 | 22:00~翌5:00の労働時間 | 1.25倍 |
法定休日労働 | 法定休日の労働時間 | 1.35倍 |
時間外労働 +深夜労働 | 月60時間を超えない時間外労働+深夜労働の時間 | 1.5倍 |
月60時間を超える時間外労働 | 月60時間を超える時間外労働の時間 | 1.5倍 |
法定休日労働 + 深夜労働 | 休日労働+深夜労働の時間 | 1.6倍 |
月60時間を超える時間外労働+深夜労働 | 月60時間を超える時間外労働+深夜労働 | 1.75倍 |
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割増賃金の計算方法と注意点
1時間あたりの基礎賃金の計算
月給制の場合の1時間あたりの基礎賃金の計算式は、以下のとおりです。
1時間あたりの基礎賃金 = 月給÷1か月の平均所定労働時間
1か月の平均所定労働時間 = (365日-年間所定休日)×1日の所定労働時間÷12
割増賃金の計算をする場合、まずは1時間あたりの基礎賃金を算出しなければなりません。パートやアルバイトなどの時給制の場合は、時給金額がそのまま1時間当たりの基礎賃金になりますが、月給制の場合には別に計算が必要です。
時間外・休日割増賃金の算定基礎から除外する手当
労働基準法施行規則21条では、割増賃金の時間単価を計算するときの基礎賃金から、除外することができる手当について規定されています。
「法第37条第5項の規定によって、家族手当及び通勤手当の他、次に掲げる賃金は、同条第1項及び第4項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。」(労働基準法施行規則21条)
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
これらは例示でなく、限定的に列挙されているものです。他のものは基本的に除外できません。また実際の手当状況によって認められない場合もあります。
賃金の計算は15分単位で問題がないか
結論、切り上げの場合は問題はありません。
切り捨てると、法律に抵触する可能性があります。労働について定められた法律に沿って考えると、定められた労働時間を1分でも超過すれば1分単位で定時以降に働いた時間を計算し、全ての時間に対する給与を労働者に与えなければならないということになります。
ただし、1か月単位で残業時間を計算した際の切り捨ては認められています。1ヶ月ごとに残業時間を算出する仕組みを設けている場合、給与を計算する作業を簡便化するために、定時以外で働く時間の端数は30分未満であれば切り捨てることができます。
認められている切り捨て処理
時間と支給金額の計算で切り捨て処理は以下の3つのみが認められています。
- 1カ月における時間外労働、休日労働、及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を切り上げること。
- 1時間当たりの賃金額および割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
- 1カ月における時間外労働、休日労働、及び深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じたときに前記②と同様に処理すること。
ただし、①③について、1日ごとに同様の処理をすることは違法となります。
管理職は時間外・休日労働の割増賃金が必要ない?
管理監督者等は例外的に労働時間、休憩、休日の原則が適用されません。(労働基準法41条)
しかし、一般的な〇〇責任者、スタッフ長、シフト作成担当の程度では認められていません。
この管理監督者の具体的な判断解釈として「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいい、名称にとらわれず、職務内容、責任と権限、勤務態様など実態に即し判断すべきもの」とし、判断基準を示されています。
スタッフに割増賃金を払わないと
割増賃金を支払わない場合、労働基準法に違反となります。
労働基準監督署による是正勧告を受けるほか、罰則を受ける可能性もあります。労働基準法によると、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金です。また労働者側から裁判を起こされた場合、残業代の未払い分に加えて、付加金の支払いを命じられることもありますので注意してください。
割増賃金に関するよくある質問
- 遅刻したスタッフが残業した場合はどうなりますか?
-
業務時間が8時間以内であれば、残業代を支払う必要はありません。
業務が法定労働時間の8時間を超える場合は割増賃金を支払う必要があります。残業しても8時間を超えない場合は、残業代を支払う必要はありません。
- 残業の承認制を導入したいのですが、問題はありますか?
-
原則として未承認の残業に対しては、残業代の支払いは必要ありません。
ただし、黙示的指示と判断されるような場合は労働時間となりますので、注意が必要です。
黙示的指示と判断されるような場合
- 指示された業務量が、所定の勤務時間内では完遂することができないような場合
- 業務の納期などが、所定の勤務時間内では完遂することができないような場合
- 客観的にみて、所定の勤務時間内ではなされ得ないと認められる場合
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