
「人生100年時代」と言われる中、医療従事者の働き方は大きな変化を迎えています。薬剤師も例外ではなく、病院・調剤薬局・ドラッグストア・企業など多様なキャリアの選択肢が広がる一方で、自分に合う職場や働き方をどう選ぶかに悩む方も少なくありません。実際、薬剤師の転職市場は年々活発化し、20代や30代からキャリアチェンジを試みる人も増えています。そうした状況の中で参考になるのが、実際に現場で活躍し、転職や採用にも関わってきた先輩薬剤師の声です。薬剤師として現場と本部の両方を経験し、現在は薬局長としてマネジメントに携わる井上准一(36)さん。今回は井上さんに、転職で評価されるポイントや面接での伝え方、キャリアを成功させるために大切な考え方について伺いました。
井上 准一(いのうえ じゅんいち)
1989年広島県生まれ。2007年に福山大学に入学後、漢方薬物解析学研究室に所属。岡村信幸教授のもとで漢方薬について学び、研究にも携わる。2013年、株式会社サンドラッグに新卒入社し、調剤・OTC・薬剤師採用業務に従事する。【保有資格】薬剤師
今行っている仕事や取り組んでいること・経歴について
ー まずは現在の仕事内容とこれまでのキャリアについて教えてください。
井上:私は地方の薬学部を卒業後、大手の調剤併設ドラッグストアに就職しました。現場で調剤とOTC販売を学び、副店長を経験した後、本部の人事部に異動し薬剤師採用を担当しました。全国の薬学部を訪問したり、説明会や面接を行ったり、採用後のフォローを担ったりと、幅広い経験を積むことができました。
ー 現場と本部、両方を経験されているのですね。
井上:そうなんです。その後は再び店舗に戻り、現在は薬局長として勤務しています。調剤・OTC・数値管理をバランス良く担当しながら、店舗全体のマネジメントに取り組んでいます。特に立ち上げから任された店舗なので、小規模から大規模へ成長する過程を支えてきました。今は人材育成やチームビルディングといったマネジメント業務の比重が大きいです。
ー 店舗の成長とともに、求められる役割も変化してきたのですね。
井上:はい。採用する側と迎え入れる側の両方を経験しているため、薬剤師が転職を考える際に何が評価されやすく、逆に何が懸念されやすいかを具体的に伝えられる立場だと思っています。最近はブログやSNSでも、薬剤師のキャリア選択に役立つ情報を発信しています。
薬剤師採用を担当する立場から見た薬剤師転職
ー 採用担当としてのご経験から、薬剤師転職で重視されるポイントは何でしょうか。
井上:一番大事にしていたのは「現場でチームの一員として活躍できるかどうか」です。薬剤師免許を持っているのは前提条件で、その上で人柄・協調性・成長意欲が重視されます。特に人柄や協調性は欠かせません。医療職はチームで動くのが基本なので、そこが欠けていると転職を成功させるのは難しいと感じます。
ー 技術や資格よりも、まずは人としての部分を見られているのですね。
井上:そうですね。資格や専門スキルは後からでも身につきますが、マインド面は日々の仕事の中で自然に表れるものです。普段から協調性や前向きな姿勢を意識しておくと、採用面接でも自然に伝わります。
ー 面接では必ず「なぜ転職を考えたのか」が問われますよね。
井上:その通りです。ここで前向きな理由を話せる方は強いです。「在宅医療に挑戦したい」「より多くの患者さんに関われる環境を探している」といった目的が明確な人は、採用側としても安心できます。一方で「上司と合わなかった」「残業が多くて体調を崩した」など、ネガティブな理由だけでは懸念を持たれやすいです。
ー ネガティブな理由はどう伝えればいいのでしょうか。
井上:ポイントは「学びや前向きな理由に変換すること」です。例えば「上司と合わなくて働きにくかった」なら「チームで協力して成果を出せる環境で、自分の強みをより活かしたい」と言い換えられます。「残業が多すぎて体調を崩した」なら「効率的に働きながら成果を出せる職場を探している」と伝えるのが良いでしょう。
ー 言い方ひとつで印象が変わるわけですね。
井上:その通りです。加えて、自分の経験をどう活かせるかを具体的に語れることも大事です。例えば「新人教育を担当していたので後輩育成に力を発揮できます」といったエピソードは即戦力としてイメージされやすい。数値があるとなお良いですね。私は採用担当として、条件面だけで職場を選んでいる人は見極めるようにしていました。給与や勤務時間も大事ですが、キャリアの軸を持っている人はやはり強いと感じます。
薬剤師は採用時に何を見られているか

ー 実際に面接で評価されやすい薬剤師にはどんな特徴がありますか。
井上:「経験を言語化できること」と「協働の姿勢を示せること」です。例えば「後発品比率を工夫によって数ヶ月で◯%改善した」といった実績は説得力があります。数字がない場合でも「状況(Before)→行動(Action)→結果(After)」の流れでエピソードを語れば十分伝わります。
ー 数字かストーリーか、どちらでも工夫次第で強みになるのですね。
井上:そうです。面接官は抽象的な言葉より具体的な経験を求めています。また、薬剤師は医師や看護師だけでなく、登録販売者や事務スタッフとも連携します。だから「チームで働く上で意識していること」を話せる人は高く評価されます。
ー 例えばどんなアピールが好印象につながるのでしょうか。
井上:「繁忙期には情報共有を率先して行い、業務効率が上がり残業削減につながった」などです。協力姿勢と成果が結びついていると強いですね。逆に「自分が中心でなければ現場が回らなかった」といった自己中心的な表現はマイナスに働きます。大事なのは「自分の行動がチームや患者にどうプラスになったか」を語ることです。
ー チーム視点を持つことが鍵になるのですね。
井上:はい。採用側は「一緒に働きたい」と思える人を探しています。自分の成果をアピールする際も、チームや患者への貢献につなげる意識が大切です。
転職する方へのアドバイス
ー 最後に、これから転職を考える薬剤師の方へメッセージをお願いします。
井上:転職を考えるなら、まずは「自己分析」を徹底してください。現職への不満を整理し、その裏返しを考えて優先順位をつければ、自分が大切にしている軸が見えてきます。軸をぶらさずに転職活動を進めることが成功の近道です。
転職は条件を満たす場を探すだけではなく、「成長の機会」でもあります。成長した上でどう貢献できるかを語れる人は強い。軸を持ち、成長視点を忘れないことが、薬剤師としてのキャリアを豊かにしていきます。現職に不満があっても、それを前向きな動機に変換すれば納得感のある転職活動につながるでしょう。
また、効率的に情報を集め、自分に合った職場を見極めるためには転職サイトを利用するのも有効です。幅広い選択肢を比較できることで、自分の軸に合ったキャリアを見つけやすくなります。