
「人生100年時代」と言われる中で、医療従事者の働き方は大きな転換期を迎えています。薬剤師も例外ではなく、病院・薬局・ドラッグストア・企業など多様なキャリアの選択肢が広がる一方で、自分に合った職場や働き方をどう選ぶかに悩む人は少なくありません。特に結婚や転居といったライフイベントをきっかけに転職を考える薬剤師も増えており、キャリア形成における重要な転機となっています。今回は、大学病院・急性期病院・慢性期病院と幅広い現場を経験し、現在は大学病院で勤務する森崎歩夢(35)さんにインタビュー。転職を通して感じた課題や成功のコツ、薬剤師としてキャリアを築いていく上で大切にしている考え方について詳しく伺いました。
森崎歩夢(もりさきあゆむ)
星薬科大学を卒業後、大学病院でレジデントを経験。その後は急性期病院、慢性期病院のいずれも経験し、現在は再び大学病院で勤務している。内科・外科いずれの病棟も経験しており、ジェネラリストを目指して研鑽を積んでいる。薬剤師5年目で慢性期病院に転職し、在籍中に抗菌化学療法認定薬剤師を取得。2020年からは医療ライターとしても活動し、薬剤師の育成や、一般の方への正しくわかりやすい医療知識の普及に努めている。【保有資格】病院薬学認定薬剤師、抗菌化学療法認定薬剤師
今行っている仕事や取り組んでいることについて
ー 現在の仕事内容について教えてください。
森崎:現在は縁あって大学病院に勤務し、病棟担当者として日々患者さんの薬物治療に介入しています。自己研鑽を重ねることを大切にしながら、自分の知識をさらに深めていくことを目指しています。30代半ばとなり新しいことを覚えるのは容易ではありませんが、どの年代であっても学び続ける姿勢は欠かせないと実感しています。
ー 学びを止めない姿勢が印象的です。
森崎:抗菌化学療法認定薬剤師を取得していますが、それだけで満足するのではなく、薬剤師はある程度ジェネラリストであるべきだと考えています。common diseaseから希少疾患まで幅広く学び、臨床に還元していくことが今の目標です。論文執筆にも挑戦したいと思っています。
ー 幅広い領域を学ぶ姿勢は若手の育成にも活きていそうですね。
森崎:そうですね。最近は新卒薬剤師の教育も担当しています。急性期病院と慢性期病院の両方を経験してきたことで、多様な働き方を考えられるようになりました。その経験をもとに、急性期病院を選んだ新卒にも広い視点を伝えることを意識しています。働き方改革で労働環境が変化しており、短い時間でどう成長させられるかに苦労しますが、非常にやりがいがあります。
転職する時の経緯

ー 転職を決意されたのはどのような経緯からでしょうか。
森崎:薬剤師5年目の春、結婚を機に引っ越しと転職が必要になりました。夫も医療関係者で夜勤の多い職種だったため、私は夜勤がなく、なおかつ資格取得に必要な症例が得られる職場を希望しました。しかし「それは難しいのではないか」「結局は急性期病院でなければキャリアが途絶えるのでは」と思い悩み、落ち込んだこともありました。
ー 当時は希望が叶わないのではと不安を感じていたのですね。
森崎:はい。急性期以外の病院では病棟活動を行っていない場合が多いと聞いていたためです。自分で地図を見て病院を探しましたが、知らない土地だったこともあり情報が不足していました。限界を感じ、初めて転職エージェントを利用しました。正直「薬局を勧められるのでは」と身構えていましたが、担当者はとても親身で驚きました。
ー キャリア志向に理解を示す担当だったのですね。
森崎:そうです。これまでの業務やキャリアを細かく伝えると、大学病院レジデント経験はユニークだと言っていただきました。一方で、強いキャリア志向は場合によって「和を乱す」と見られる可能性があるとも率直に伝えられ、むしろ吹っ切れるきっかけになりました。実際、最初に面接した病院は「上昇志向の方は合わない」と不採用でした。
ー その後はご希望に合う病院と出会えたのですか。
森崎:エージェントが紹介してくれた二つ目の慢性期病院は雰囲気が良く、薬剤師や先生方も熱心でした。見学の際には現場の薬剤師と直接話せたのも安心材料になりました。薬剤部は「新しいことをやりたいが経験がない」という姿勢で、私のような経験者を歓迎してくれたのが印象的でした。
ー 入職後の環境はいかがでしたか。
森崎:内定後もエージェントから聞いていた通りの業務内容で、困ることなく働けました。薬剤部では全員が病院薬学認定薬剤師取得を目指すようになり、eラーニング費用や学会参加費も福利厚生で支援されました。他の薬剤師から「森崎さんのおかげで介入ができるようになった」と感謝されたこともあり、切磋琢磨できる良い環境でした。
自身の転職で上手く行ったこと・反省点
ー 転職活動でうまくいったと感じた点を教えてください。
森崎:希望条件に合致した病院をほぼ100%見つけてもらえたことです。コロナ禍で車通勤を希望したのですが、通常は近距離通勤は認められていない中、エージェントの交渉で実現しました。また、大学病院経験や認定資格は慢性期病院では珍しく、「将来の病院の収益につながる」と評価され、薬剤師手当も高く設定していただけました。
ー 経歴が評価され、条件面にも反映されたのですね。
森崎:はい。給与面を特に希望していなかった私にとっては意外でしたが、経歴をしっかり評価していただけたことは嬉しかったです。さらに半年後には病棟業務も始まり、資格取得に必要な症例を集められました。ICTチームのメンバーにも抜擢され、その後の転職にも活きる経験を積むことができました。
ー 転職活動の成功要因はどこにあったと感じますか。
森崎:遠慮せずに希望やキャリアの考えをすべてエージェントに伝えたことだと思います。自分では「無理だ」と判断しそうな内容も含め、正直に伝えたことで理想的な転職につながりました。
ー あえて聞きますが、転職活動で想定外だった事はありますか。
森崎:後悔というほどでもありませんが、紙カルテの病院だったのは予想外で、馴染むまで大変でした。紙カルテは珍しいので、そのような病院があるとは考えておらず、条件にしていませんでした。ある意味では、これもよい経験ではありますが。(笑)
転職する方へのアドバイス
ー 最後に、薬剤師の転職の成功の鍵をを教えてもらえますか?
森崎:転職を考える薬剤師にとって重要なのは、まず希望条件をすべて伝えることです。自分で「無理だ」と決めつけず、優先順位を整理すれば納得のいく選択肢に出会える可能性は高まります。
さらに、給与や勤務環境など交渉しづらい部分はエージェントに任せることで安心して活動できます。私の経験が示すように、転職はキャリアを諦めることではなく、新たな成長のきっかけとなる場です。
効率的に情報を収集し、自分に合った環境を見極めるためにも、転職サイトやエージェントを活用するのは有効な手段といえますね。