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「“緩和ケアに専念できる環境を選ぶ大切さ”とは」ー 看護師の山下志穂美氏に聞く。

超高齢社会を迎えた日本では、がん患者や終末期の方々を支える「緩和ケア」の重要性がますます高まっています。急性期医療から在宅医療まで切れ目なく支援するためには、専門性を持った看護師が多様な現場で力を発揮することが欠かせません。今回お話を伺ったのは、緩和ケア認定看護師であり、現在は緩和ケア病棟で勤務しながら訪問看護ステーションのコンサルテーションも手掛ける山下志穂美さん(38)。ICUやがん診療拠点病院での経験を経て、補完代替療法の学び、教育現場での指導、現在の緩和ケア病棟勤務へとキャリアを重ねてきました。患者さんの暮らしと命に寄り添いながら、自らのキャリアを模索し続けてきた山下さん。緩和ケアの現場で直面するやりがいや課題、転職を通して気づいた「働き方の選び方」について、率直に語っていただきました。

山下志穂美(やましたしほみ)

1987年鹿児島県生まれ。独立行政法人国立病院機構鹿児島医療センター附属鹿児島看護学校卒業後、2009年福岡県内の地域がん診療連携拠点病院に就職。2016年に緩和ケア認定看護師となり、緩和ケアチームに所属。2023年補完代替療法を学ぶためにがん治療専門クリニックに転職と同時に看護学校で終末期看護の非常勤講師を務める。2024年に緩和ケア病棟へ転職し、在宅緩和ケアの質向上のため訪問看護ステーションの顧問開始。【保有資格】看護師、緩和ケア認定看護師、ICAA認定リンパ浮腫専門看護師

目次

今行っている仕事や取り組んでいることについて

ー 現在はどのようなお仕事をされているのですか。

山下:現在は緩和ケア病棟に勤務し、がん終末期の患者さんに対して症状マネジメントや心理的サポートを中心に取り組んでいます。緩和ケア認定看護師としての専門性を活かし、患者さんとご家族が少しでも穏やかに過ごせるよう日々寄り添っています。さらに、病棟で不足していると感じていたリンパ浮腫ケアに注目し、ICAA認定リンパ浮腫専門看護師の資格を取得しました。現在はリンパ浮腫外来の開設に向けた準備も進めています。

ー 臨床以外にも活動されているそうですね。

山下:はい。個人事業として訪問看護ステーションと提携し、研修や症例相談を行う外部コンサルテーションにも取り組んでいます。緩和ケアやリンパ浮腫の知識を現場に広げることで、在宅でのケアの質を高めることが狙いです。現場スタッフからは「患者さんへの対応の幅が広がった」と高く評価していただき、導入の意義を強く感じています。

ー 今後の展望について教えてください。

山下:今後は、訪問看護ステーションへのコンサル活動を認定看護師の新しい社会貢献の形として学会で発表したいと考えています。臨床と並行して外部支援を行うことは大変ですが、自分の専門性をより多くの現場で役立てる機会になると信じています。緩和ケアの発展や在宅医療の質向上につながる取り組みを、今後も積極的に続けていきたいです。

過酷な勤務経験から自分を見つめ直す

ー これまでの転職経験について教えていただけますか。

山下:私はこれまでに3回転職を経験しています。最初の転職は急性期病院での過酷な勤務に疲弊し、夜勤中の流産をきっかけに退職したことでした。術後に職場へ戻る気持ちになれず、一度は看護を離れましたが、2か月ほどで「やはり働きたい」と思えるようになりました。その後、看護協会の求人を見て自由診療クリニックに転職し、がん看護や補完代替療法を学びました。

ー 自由診療クリニックではどのような課題に直面されたのでしょうか。

山下:希望通り補完代替療法を学べ、パート勤務で時間にも余裕がありました。しかし、患者さんが常に来院するわけではなく、担当患者さんの治療が終わると退勤する仕組みだったため、勤務時間が1〜1.5時間の日もありました。通勤に往復1時間半かかっていたこともあり、安定した収入や働き方が確保できず、長く続けるのは難しいと判断しました。

ー 転職を決意してからはまずどのような行動を取ったのですか?

山下:まずは求人サイトを調べ、地元に根差している薬局数件に問い合わせをしました。そして、複数の薬局で面接を受けるなかで、今の勤務先に出会いました。面接時に「地域の患者さまに寄り添いながら、一人ひとりに丁寧な対応をしたい。」という思いを率直に伝えたところ、面接を担当してくださった社長から「そういう薬剤師を必要としている」と言っていただけたことが、最終的な決め手となりました。

ー 二度目の転職ではどんなお仕事をされたのですか

山下:看護学校の非常勤講師です。知人の紹介で契約し、2年間勤務しました。講義資料作成に多くの時間を費やし、時給換算すると低く感じました。2年目は資料のブラッシュアップで負担は減りましたが、学生の態度やマナーに課題が多く、教育の難しさを痛感しました。やりがいを見いだせず、契約更新は見送りました。

ー 三度目の転職先である緩和ケア病棟について教えてください。

山下:以前の上司から紹介を受け、緩和ケア病棟に入職しました。緩和ケアは私にとっていつか挑戦したい目標であり、タイミングよく叶ったことを幸運に感じています。以前は急性期病棟で緩和ケアチームに所属していましたが、業務に追われサービス残業も多く「やりがい搾取」と感じる部分がありました。現在は専従看護師として配属され、勤務時間内で緩和ケアに専念できる環境になり、精神的にも金銭的にも満足度の高い働き方ができています。

ー 三度目の転職先である緩和ケア病棟について教えてください。

山下:はい。特にリンパ浮腫ケアに力を入れています。病院に提案したところ外来開設が承認され、通常業務と並行して準備を進めています。やりがいを持ちながら働けており、これまでの経験を活かしつつ、自分の専門性をさらに発展させていきたいと考えています。

転職で上手く行ったこと・コツ・反省点

ー 転職して良かったと感じる点は何でしょうか。

山下:自分で調べて興味のある分野を学べたことは大きな成果でした。ただし、給与面や通勤時間、働き方などを深く考えなかったため、長く働き続けるのは難しいと痛感しました。やはり条件面まで含めて慎重に判断する必要があると学びました。

ー 知人の紹介で転職されたこともあるそうですが、その経験はいかがでしたか。

山下:知人の紹介は緊張感が和らぎ、働きやすさを感じられましたし、交渉もしやすいメリットがありました。一方で、スタッフや職場の雰囲気を十分にリサーチせずに決めてしまい、後々大変な思いをしたこともあります。紹介だから安心と考えず、自分の夢や目標が叶う環境かどうかを見極める必要があると強く感じました。

ー 今振り返っての反省点があれば教えてください。

山下:採用されたい気持ちが強く、面接時に「働き方は相手の都合に任せます」と伝えてしまったことがあります。その結果、勤務時間が安定せず、職場にとって都合の良い人材となってしまいました。働くのは相手のためではなく自分のためだという視点を忘れていたのが反省点です。今後は自分の優先順位を明確にして、理想の働き方を守る姿勢を大切にしたいと思っています。

転職する方へのアドバイス

ー 最後に、転職を考えている方へアドバイスをお願いします。

山下:金銭的報酬だけで仕事を選ぶと長続きしないと感じています。私自身、転職を通して苦い経験もしました。仕事の楽しさややりがいといった精神的報酬、スキルアップにつながる技能的報酬、社会的信用を得る信頼的報酬、スタッフ育成に関わる貢献的報酬など、多角的な視点で自分の理想に近い働き方が叶えられる職場を選ぶことが大切です。もちろんすべてを満たす環境を見つけるのは難しいかもしれませんが、「自分は働くことで何を得たいのか」を考えること自体に大きな意味があります。

転職後に「この選択で良かった」と思えるように、自責思考で場所を選び取ることを意識してほしいです。今の職場が負担になっていたり、キャリアアップを目指したいと考えている方は、ぜひ勇気を持って一歩を踏み出してほしいと願っています。

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この記事を編集した人

転職に本当に必要な情報を届けるメディアというコンセプトで2024年に株式会社メディカルリンクの新規事業としてスタート。メディアを通じて今の自分に相応しい職場を見つけるサポートを行う。見やすく分かりやすいサイトデザインと徹底した取材・市場調査で転職を検討しているユーザーの満足度を上げる事をミッションに定める。

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