
高齢化が進む中で、理学療法士の活躍の場は病院から介護施設や在宅へと広がりを見せています。急性期での機能回復に加え、生活の質を高める支援や多職種との連携も欠かせない時代になりました。そんな変化のなかで「その人らしい生活」を支えることに重きを置き、キャリアを積んできたのが藍沢こはるさん(30)です。急性期病院で一般・整形外科・内科を経験したのち、結婚と移住を機に介護施設へ転職。現在は入所者のリハビリから在宅復帰支援、外出行事や動物介在まで幅広い取り組みを行っています。今回は、病院から介護施設へと転職した藍沢さんに、環境の変化で得られた学びや、転職を成功させるために意識したポイントを伺いました。
藍沢 こはる(あいざわ こはる)
1995年福井県生まれ。鈴鹿医療科学大学で国家資格理学療法士を取得。愛知県一宮市にある法人所有の病院へ就職。3年間勤務する。法人内で異動があり、一般病棟、急性期の整形外科病棟、 急性期の内科病棟をそれぞれ1年ずつ経験した。急性期病院で勤務している時期に同僚の理学療法士と結婚。結婚後、退職し 三重県津市にある介護施設へ転職し4年経過。【保有資格】理学療法士
今行っている仕事や取り組んでいることについて
ー 現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか。
藍沢:私は理学療法士として、介護施設で入所されている方へのリハビリを中心に提供しています。介護施設は初めての勤務先だったので、当初は提供のルールやケアプランの重要性を一つひとつ学びながら業務を始めたのを覚えています。現在は、日常生活動作の改善や在宅復帰を目指したリハビリを行っており、介護士や看護師からの情報も取り入れながら、利用者さまの困りごとを解消できるようメニューを工夫しています。
ー リハビリ以外にも、生活の楽しみを大切にされているのですね。
藍沢:はい。喫茶コーナーでコーヒーを豆から挽いて一緒に楽しんだり、犬や猫を見に行ったり、施設周囲を散歩する時間もあります。特に梅や桜が咲く春は、入所者さまとスタッフ全員が季節を楽しむひとときになります。また、外出行事として近くの植物園へ出かけ、花を購入して施設で育て、水やりを担当してもらうといった活動も取り入れています。リハビリスタッフも積極的に関与し、リハビリを生活に結びつける工夫をしています。
ー 在宅復帰を支援する取り組みも行っているそうですね。
藍沢:そうなんです。入所前後の訪問指導にも力を入れており、担当制で利用者さまのご自宅を訪問し、実際の生活環境を確認します。その内容をリハビリメニューに反映させることで、より現実的な支援が可能になります。さらに、カンファレンスを通じて多職種と情報共有を行い、必要に応じてメニューを調整しています。生活とリハビリをつなぐ視点を大切に、日々取り組んでいます。
急性期から介護施設への転職
ー まず、転職を考えるきっかけについて教えていただけますか。
藍沢:以前は急性期病院で3年間勤務していました。その後、4歳年上の夫との結婚を機に、彼の地元である三重県に移住することになったんです。彼の実家に戻りたいという希望と、私自身のキャリアプランを重ね合わせた結果、転職を決意しました。もともと病院勤務は3〜5年で一区切りと考えていたので、タイミングとしても適切だと感じていました。
ー 急性期病院でのご経験はどのようなものだったのでしょうか。
藍沢:急性期病院では患者さんの容態が目まぐるしく変化するため、リスク管理能力や病状の経過を予測する力を磨くことができました。先輩や同僚に積極的に質問して、多くの知識と経験を吸収できたのは大きな財産です。一方で、身体的にも精神的にも負担が大きく、環境を変えたいという気持ちも次第に強まっていきました。
ー 転職後はどのような環境で働き始めたのですか。
藍沢:転職先は介護施設でした。急性期とはまったく異なる環境で、最初は戸惑うことばかりでした。介護施設でのリハビリは初めての経験で、右も左もわからない状態でしたが、同僚や上司に積極的に質問し、一つひとつ丁寧に業務を覚えていきました。
ー 施設での具体的な経験について教えてください。
藍沢:1年目は施設入所者さまのリハビリを担当しました。生活背景や価値観を理解し寄り添うことの大切さを学びましたし、通所リハビリもフォローしながら様々な症例に触れることで知識と技術を深めました。2年目からは訪問リハビリを担当し、利用者さまのご自宅や高齢者住宅を訪問。ケアマネや訪問看護と連携し、生活の場に直接関わることで個別性の高い支援ができることを実感しました。
3年目からは再び入所リハビリを担当し、感染症流行時にはレッドゾーンに入り介助業務も経験しました。多職種と協力しながら、チームで入所者さまを支える重要性を学んだ期間でした。
ー 急性期と介護施設、両方を経験して見えた大きな違いは何でしょうか。
藍沢:一番は「生活への視点」を強く意識するようになったことです。急性期では病状や身体機能の回復に焦点を当てていましたが、介護施設では生活背景や価値観、「その人らしさ」を理解することが欠かせません。食事や入浴、排泄などの日常動作の自立だけでなく、趣味や社会参加への意欲を支えることが生活の質の向上につながると学びました。例えば、単なる歩行訓練ではなく「散歩に行きたい」「買い物に行きたい」という願いを実現するための歩行能力を目指すことで、リハビリの意義を共有し、利用者さまのモチベーションを高めることができています。
転職で上手く行ったこと・コツ・反省点
ー 転職がうまくいった一番の理由は何だったと感じていますか。
藍沢:一番は自己分析を徹底したことです。自分の強み・弱み・興味関心・価値観を洗い出し、これまでの職務経験で培ったスキルや「どんな仕事にやりがいを感じたか」を具体化しました。さらに、将来どんなキャリアを築きたいか、どんな働き方を望むかまでイメージし、転職の軸を明確にできたことが、選択のブレを防いでくれました。
ー 逆に、振り返っての反省点があれば教えてください。
藍沢:業界・企業研究をもっと徹底すべきだった点です。興味のある業界・法人について、事業内容や社風、待遇などを幅広く集め、ミスマッチを防ぐ準備が必要でした。公式サイトやSNS、口コミサイトを横断して文化・価値観を把握し、求人票を丁寧に読み解いて自分のスキルが求める人物像と合うかを検証する。こうした積み上げが、入社後のギャップを最小化し、活躍のイメージを具体化してくれると思います。
ー 企業研究を進める際、実務的なコツはありますか。
藍沢:まず一次情報→二次情報の順で整理します。①法人の理念・事業計画・提供サービス(一次情報)を押さえる、②現場の声や評判(口コミ・SNS等の二次情報)で温度感を補う、③求人票を要件・配属・評価指標に分解して自分の経験と突き合わせる、の三段構えです。ここまでできると、入社後の活躍仮説が描けて、転職活動のモチベーションも上がります。
ー 応募書類の質を高めるポイントを教えてください。
藍沢:職務経歴書は「具体・簡潔・数値」が基本です。担当領域・規模・役割を明確にし、成果は可能な限り数値で提示(例:転倒リスク評価の導入で事故報告△%減、ADL向上者◯名、在宅復帰率↑など)。自己PRは自分の強み×相手が求める人物像の交差点を強調し、応募先ごとにカスタマイズします。履歴書・職務経歴書ともに誤字脱字のチェックと論理的な段落構成を徹底する。この基本を外さないことが、書類選考の通過率を確実に押し上げてくれます。
カギは自分を客観視することの大切さ
ー 最後に、転職を考えている方へアドバイスをお願いします。
藍沢:転職を始めるなら、まずは焦らず準備に時間をかけることが大切です。自己分析・業界/企業研究・応募書類作成・面接対策までを計画的に進め、納得感のある選択に近づけてください。情報収集は多角的に行いましょう。
転職サイトや企業のウェブサイトに加えて、SNSや口コミサイト、転職エージェントも活用し、複数のエージェントに登録して比較検討すると視野が広がります。知人・先輩からリアルな話を聞くのも有効で、私自身は大学のゼミの先生に相談し、客観的な意見を得られたことが満足いく結果につながりました。さらに、面接対策は入念に。自己紹介・志望動機・退職理由・強みと弱み・キャリアプランなどの定番質問は事前に言語化し、模擬面接で第三者のフィードバックを受けて精度を高めてください。
応募企業のウェブサイトや最新ニュースを確認し、事業内容や理念を理解して臨むことも、説得力のある受け答えに直結します。準備を重ねれば重ねるほど、不安は具体的な自信に変わります。