
働き方改革やライフスタイルの多様化が進む中で、看護師のキャリア選択も大きな変化を迎えています。急性期から在宅まで幅広い分野で活躍できる一方、夜間オンコールや長時間勤務との両立に悩み、家庭や子育てとのバランスに課題を感じる方も少なくありません。今回お話を伺ったのは、ICU・透析・訪問看護と11年間の経験を積み、現在はフリーランスライターとして活動する木本彩さん(33)。2児の母として家庭を優先しつつ、非常勤や単発勤務で現場にも立ち続けています。訪問看護のやりがいに魅了されながらも、夜間対応や育児との両立に限界を感じた木本さんは、どのように転職とキャリアの方向転換を決断したのでしょうか。働き方を見直すまでの経緯や現在の取り組み、そして、同じように悩む看護師へのメッセージを伺いました。
木本 彩(きもと あや)
1992年神奈川県生まれ。横浜労災看護専門学校を卒業。看護師国家試験に合格し、正看護師免許を取得。急性期病院ICU、透析病院、訪問看護での11 年の看護経験があり、急性期から慢性期・在宅看護まで幅広く知見を持つ。6歳・5歳の2児の母。2025年3月に常勤看護師としての勤務を退職。家庭を優先にしつつ、看護師としての知見を活かしフリーランスライターとして活動開始。医療現場のリアルな空気感と看護観をもてるよう、看護師単発バイトや非常勤パートとして、看護の現場にも立ち続けている。【保有資格】 正看護師
今行っている仕事や取り組んでいることについて
ー 現在はどのようなお仕事をされているのですか。
木本:これまでICUや透析、訪問看護などさまざまな現場で働いてきましたが、2人の子どもの母として家庭を優先したいと思い、2025年3月に常勤を退職しました。退職後は自宅で過ごす時間を活かし、ライタースクールに通ってライティングやSEOを学び、看護師としての知識を記事にして発信する活動を始めています。
ー ライターとしての活動はどのように進めていらっしゃいますか。
木本:子どもたちが幼稚園に行っている間や寝かしつけ後の時間を使って、自宅でフリーランスライターとして活動しています。看護師としての体験談や在宅介護に関する知見を文章にまとめることで、同じ看護職の方や介護に直面するご家族にとって役立つ情報になるのではないかと感じています。直接ケアを提供するのとは異なりますが、言葉を通して支えになれることに大きなやりがいを感じています。
ー 臨床の現場との関わりも続けているのでしょうか。
木本:はい。看護を言葉にするには、現場のリアルな空気感や感覚が欠かせないと考えています。そのため、単発バイトのサイトを利用し、定期的に看護の仕事を続けています。最近では子どもたちの幼稚園の時間に合わせて働ける非常勤の仕事にも巡り合い、家庭と両立しながら臨床感覚を磨けています。看護師の仕事は命を支える責任あるものですが、同時にライフスタイルに合わせて柔軟に働ける素晴らしい職業だと改めて実感しています。
転職する時の経緯(転職前・後)

ー 訪問看護師として働かれていた当時は、どのようなお仕事をされていたのですか。
木本:退職を決めた当時、私は訪問看護師として勤務していました。病院での勤務とは異なり、利用者さんの自宅に伺い、その場にある環境や物を使って看護を提供するという特殊な仕事です。最初は戸惑うことも多くありましたが、徐々に信頼関係を築き、看護学生の頃に戻ったような気持ちで「この方にどんな看護が必要なのか」と真剣に向き合う日々でした。訪問看護の奥深さややりがいに夢中になり、どんどん惹き込まれていったのを覚えています。
ー 訪問看護にはやりがいと同時に負担もあったのではないでしょうか。
木本:その通りです。特に夜間や休日のオンコール当番は常に緊張状態で、心から休むことができませんでした。急な出動、特に深夜の出動は体力的に大きな負担となり、子育てとの両立に苦しむことも多かったです。また、子どもの体調不良などで急に休む必要があっても、利用者さんのスケジュールは事前に決まっているため振替が難しく、申し訳なさを感じながら仕事を続けていました。利用者さんとの関係性が深まるほど、自分の訪問を心待ちにしてくださる姿がプレッシャーにもなっていたのです。
ー そんな状況で、どのように転職を決断されたのでしょうか。
木本:訪問看護を3年間続け、「もっとキャリアを積みたい」という思いは強くありました。しかし、心身の負担や家庭との両立を考えると、働き方を変える必要があると感じました。これまで積み重ねてきた経験は必ず活かせると信じ、一度は家庭を優先する選択をしました。現在はフリーランスライターとして、看護師として得た知見を記事として発信しつつ、単発や非常勤の看護業務を両立させています。
ー 現在の活動にはどのような意味を見出していますか。
木本:急性期・慢性期・在宅と幅広い領域を経験してきたからこそ、伝えられる知見があると考えています。施設勤務では病院とは異なる場面を踏まえ、観察やフィジカルアセスメントを活かした看護を提供しています。また「看護を言葉にする」ことで、看護職を志す方や現場で悩む方、医療や介護に直面するご家族へ気づきや安心を届けられると信じています。
ー 今後のキャリアについて、どのように考えていらっしゃいますか。
木本:ライターや非常勤勤務を通して臨床に関わりながらも、いずれは在宅医療の現場に戻り、特定行為研修を受けて知識や技術をさらに磨きたいと思っています。訪問看護で学んだ「暮らしに寄り添う視点」はどんな場面でも活かせる財産です。現場の患者さんによりよい看護を届けるため、今の自分にできることを一歩ずつ積み重ねていきたいと考えています。
家庭を優先する決断
ー 転職して一番良かったと感じることは何でしょうか。
木本:一番大きかったのは、子どもたちと過ごす時間が増えたことです。以前はキャリアを追い求めるあまり保育園に預けっぱなしで、母親として十分に役目を果たせていないのではと感じていました。仕事をがんばっているはずなのに心に穴が空いたような感覚に陥っていたのです。フリーランスに転身してからは自分で時間を組み立てられるようになり、子どもたちの気持ちに耳を傾ける余裕を持てるようになりました。
ー 在宅でのお仕事にはどんな工夫をされていますか。
木本:集中して作業を進めるためには環境整備が不可欠です。子どもが休みで家にいると「ママ!」と何度も呼ばれて仕事が中断されるので、計画を立て「この時間は必ず執筆に充てる」とルール化しました。ただ、自宅にはスマートフォンやテレビ、お菓子といった誘惑が多く、当初はつい手を伸ばしてしまうこともありました。意識して距離を置き、集中できる環境づくりを続けています。
ー 自宅以外で仕事をされることもあるのですか。
木本:はい。どうしても集中できないときはコワーキングスペースを利用します。費用はかかりますが、周囲も仕事に取り組んでいる空間に身を置くことで自然と集中力が高まり、効率的に進められると感じています。仕事の質を保つための投資と考え、必要に応じて活用しています。
ー フリーランスで働くうえで気を付けている点を教えてください。
木本:自由度が高い反面、働こうと思えばいくらでも働けてしまうのがフリーランスの難しさです。私は頑張り過ぎる性格なので、体調管理を特に意識しています。「休むことも仕事の一部」と割り切り、心身を整える時間を確保するようにしています。子どもとの時間と同じくらい自分自身を大切にすることが、育児と仕事の両立には欠かせないと実感しています。
転職する方へのアドバイス
ー 最後に、転職を考えている看護師の方へメッセージをお願いします。
木本:看護師として病院や訪問看護を経験し、どの現場にもやりがいと課題があると実感しました。キャリアを積みたい気持ちと家庭を大切にしたい思いの間で悩む方も多いと思います。私自身も訪問看護に夢中になりながら、夜間オンコールや子育てとの両立に限界を感じて働き方を見直しました。
現在はフリーランスライターと非常勤勤務を組み合わせ、自分に合うスタイルを築けています。転職で大切なのは「環境に合わせる」のではなく「自分の優先順位を見極める」ことです。子どもや家族との時間を優先するのか、専門性を深めるのか、軸を明確にすれば迷いは減ります。
転職は後ろ向きではなく、自分らしいキャリアを築く前向きな一歩です。あなたらしさをゆっくりと見つけて、自分らしい働き方を築いてみてください。