
「人生100年時代」と言われる今、薬剤師に求められる役割は年々広がりを見せています。地域包括ケアやセルフメディケーション支援、在宅医療への参画など、従来の調剤業務だけではない幅広いスキルが必要とされるようになりました。さらに、働き方改革や医療提供体制の変化もあり、薬剤師がキャリアをどう築くかはこれまで以上に重要なテーマとなっています。その一方で、転職市場は活発化し、20代からキャリアチェンジに挑む薬剤師も少なくありません。外資系製薬会社でMRとしてキャリアをスタートさせ、その後、大手チェーンドラッグストアで薬剤師としての道を歩んできた石田直樹さん(43)。勤務薬剤師から管理薬剤師、エリアマネージャーや部長を経て、現在は本社調剤部門の管理職として組織全体を牽引しています。今回は、石田さんにこれまでのキャリアと転職の経緯、薬剤師が転職で意識すべきポイントについて詳しく伺いました。
石田 直樹(いしだなおき)
1982年、東京都生まれ。昭和大学大学院を修了後、外資系製薬会社にMRとして入社し、中枢神経系領域の製品で、クリニックから地域の中核病院まで幅広い医療機関を担当。約3年間のMR経験を経て、大手チェーンドラッグストアへ転職。薬剤師として現場業務を重ねながら、勤務薬剤師、管理薬剤師、エリアマネージャー、部長としてキャリアアップを経験。【保有資格】薬剤師、研修認定薬剤師
今行っている仕事や取り組んでいることについて
ー 現在の仕事内容について教えてください。
石田:現在は大手ドラッグストアの本社調剤部門で管理職を務めています。現場で患者さんと接することはほとんどなく、数値管理や方針策定を行いながら、組織全体の質を高めることに時間を費やしています。具体的には、複数店舗の運営支援や教育体制の整備、人事配置、採用活動まで幅広く関わっています。
ー 組織全体を俯瞰して支える立場なのですね。
石田:そうですね。特に意識しているのは「どのような薬剤師が地域や医療に貢献できるのか」を常に考え、それを現場に落とし込むことです。患者さんに価値あるサービスを提供するためには、まず働く側の質が問われます。そのため、一人ひとりが力を発揮できる環境を整えることを大切にしています。
ー 薬剤師に求められる役割も変化していますよね。
石田:はい。調剤業務だけでなく、地域包括ケアやセルフメディケーション、チーム医療への参画など、多様な役割が求められています。だからこそ個人任せではなく、組織全体でレベルを底上げし、持続可能な形で医療貢献を実現する。それが現在の私の使命だと考えています。取り組みを進める中で、自分自身も常に学び続ける必要性を強く感じています。
転職を振り返ってみて

ー MRから薬剤師としての道を選んだ経緯を教えてください。
石田:もともとは外資系製薬会社でMRとして働いていました。中枢神経系領域を担当し、医師と専門的な議論ができるほど知識を深められたのは大きな財産です。
ー しかし、転職を考えるきっかけがあったのですね。
石田:そうなんです。ある時「薬を扱う仕事をしているのに、薬剤師として幅広く説明できない」ことに気づきました。家族や友人から薬について聞かれても、自社製品以外には答えられない自分がいたんです。薬剤師としてもっと広い視野を持ちたいという想いが強くなりました。
ー その思いが転職につながったのですね。
石田:はい。転職先として調剤薬局かドラッグストアかで迷いましたが、周囲からの相談内容がOTCに関するものばかりだったこともあり、OTCに強いドラッグストアを選びました。
ー 入社後はゼロからの挑戦だったと伺いました。
石田:その通りです。調剤業務もOTCも一から学び直しでした。最初はカウンターで質問されても答えに窮することが多く、悔しい思いもしました。それでも一つひとつ調べて学び、少しずつ自信をつけていきました。お客様に「ありがとう、よくわかった」と言っていただける瞬間は、MR時代には得られなかった喜びでしたね。
ー 直接患者さんに感謝される経験は大きなモチベーションになりますね。
石田:その通りです。今もすべての薬を網羅できているわけではありませんが、学び続ける姿勢こそが薬剤師として大切だと思います。
転職で上手く行ったこと・コツ・反省点
ー 転職活動はどのように進められましたか。
石田:まず転職サイトに登録し、コンサルタントと面談を重ねました。転職エージェントを活用したことは非常に大きな意味を持ちました。
ー どのような点で役立ったのでしょうか。
石田:客観的に自分を分析してもらえたことです。自分の経験や強みを市場価値という視点で整理してもらえたことで、「どの環境で力を発揮できるのか」を考えやすくなりました。その結果、応募先すべてから内定をいただけ、本当に自分に合う職場を選ぶ時間が持てました。
ー 転職成功のポイントは何だと思いますか。
石田:「やりたいこと」と「できること」の両方を見極めることです。私は「OTCを学びたい」「調剤に挑戦したい」という意思を持ちながら、MR時代に培ったコミュニケーション力や提案力といったスキルを活かせる場を探しました。その両輪が合致した職場に出会えたのが成功の理由だと思います。
振り返って感じることはありますか。
石田:転職はキャリアを諦めることではなく、柔軟に広げるチャンスだと感じています。当初の思いとは違い、今は管理職として現場から離れていますが、それも自分の強みを活かした結果です。キャリアは常に変化するものであり、その時々で最善の選択を積み重ねることが重要だと実感しています。
カギは自分を客観視することの大切さ
ー 最後に、薬剤師として転職する方へのアドバイスをしてもらえますか?
石田:これから転職を考える方に一番伝えたいのは、「自分自身を客観的に評価すること」の大切さです。今の職場でしっかりキャリアを積み上げられるのか、それとも別の場所でスキルや強みをより活かせるのか。その見極めが将来を大きく左右します。
自分が何をやりたいのか、何ができるのかを明確にすることも大切ですが、それはあくまで“今の自分”から導き出せる答えに過ぎません。数年経てば価値観や得意分野は変わるかもしれません。実際、私もOTCや調剤を極めたいという思いで転職しましたが、気づけば今は管理職として別の形で貢献しており、薬剤師実務からは離れています。
それは妥協ではなく、自分の強みを活かせる道を選び続けた結果です。だからこそ、自分の考えに固執せず、常に柔軟な視点を持ち、その時々の“今”を大切にして選択してほしいと思います。そうすれば、きっとこれからのキャリアを広げるヒントが見つかるはずです。