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「“エージェントに相談すること”から薬剤師転職は始まる」ー 現役薬剤師・伊藤美希氏に自身の体験談を聞く。

「人生100年時代」と言われるなか、医療従事者の働き方も大きな変化を迎えている。中でも薬剤師は、病院・調剤薬局・ドラッグストア・企業など、キャリアの選択肢が幅広い一方で、自分に合った環境をどう見極めるか悩む人も少なくない。実際、薬剤師の転職市場は年々活発化しており、20代から早くもキャリアチェンジを経験する人が増えている。しかし「自分らしい働き方」を探すことは容易ではなく、迷いを抱えたまま転職を繰り返してしまうケースも見受けられる。そうした状況の中で参考になるのが、実際に転職を経験し、新たなキャリアを築いている先輩薬剤師たちのリアルな声だ。本稿では、薬剤師として転職を経験した薬剤師の伊藤美希(30)さんに、転職を決意した背景や選んだ職場環境、そして今後のキャリア展望について伺った。

伊藤 美希(いとう みき)

1995年大阪府生まれ。私立大学薬学部を卒業後、薬剤師免許を取得。2020年に急性期総合病院に新卒入社し、病院薬剤師として勤務。2024年に派遣薬剤師へ転職し、現在は総合病院の門前薬局で勤務している。【保有資格】薬剤師

目次

現在の自身の取り組んでいる事について

ー 現在の伊藤さんの状況を教えてください。

伊藤:現在は派遣薬剤師として、総合病院の門前薬局で勤務しています。主な業務は調剤と投薬で、電話対応や複雑な調剤(水剤や散剤の一包化など)は担当していません。勤務は週4日、1日8時間(休憩を含め9時間)で、残業はほとんどなく時間ぴったりに帰宅できています。病院時代と違って、夜勤や休日出勤はありません。

派遣会社の担当者は3か月ごとの契約更新の際に必ず連絡をくれるほか、時には直接様子を見に来てくれます。体調不良や勤務先でのトラブルにもすぐ対応してもらえるため、派遣社員として安心して働ける環境です。

ー 残業がないのは働きやすい職場といえますね。詳しい業務について伺っても良いですか。

伊藤:病院薬剤師として働いていた頃と比べると予定も立てやすくなりましたね。今の薬局は薬剤師5名ほどで運営され、抗がん剤から風邪薬まで幅広く対応しています。ミキシングこそありませんが、自己注射の指導など病院勤務で培った知識を活かせる場面は想像以上に多くありました。さらに、外来で扱う経口抗がん剤など新たに学ぶことも多く、薬剤師として成長を実感しています。一方で、保険請求や加算の知識は不足しており、薬局薬剤師の方に教えていただくことも少なくありません。職場の雰囲気は良好で、困ったときにはすぐに相談できる環境があるため、安心して業務に取り組めています。

ー 患者と長期的に関わり服薬の観点から継続的に診るという内容になっているのですね。

伊藤:本当に仰る通りです。病院では急性期の患者さんが中心で、長期的に関わることはあまりありませんでした。しかし薬局では、慢性的な疾患を抱える患者さんと定期的に顔を合わせることができます。派遣薬剤師の立場上かかりつけ薬剤師の算定はできませんが、患者さんの課題に継続的に関われる点にやりがいを感じています。

薬剤師としての転職の経緯

ー 伊藤さんの転職についてお聞かせください。どういった経緯で転職に至ったのでしょうか。

伊藤:新卒で入社したのは急性期の総合病院でした。病棟担当や外来、抗がん剤のミキシング、委員会活動など幅広い業務を経験し、一人夜勤や休日出勤もこなしていました。忙しい毎日でしたが、医師や看護師、同僚薬剤師との関係も良好で、頼りにしてもらえることにやりがいを感じていました。職場への不満はほとんどなく、このまま経験を積んでいくのだろうと考えていた時期もあります。

ー 薬剤師のキャリアとしては充実していうるように見えます。何かきっかけがあったのですか?

伊藤:ありましたね。私は結婚を機に生活環境が大きく変化しました。自宅から病院までの通勤時間は長くなり、シフト勤務や夜勤と家事の両立に体力的な厳しさを感じるようになりました。残業はそこまで多くなかったものの、帰宅が遅くなれば夫とすれ違う日々が続き、心身に負担が積み重なっていきました。体調にも変化が現れ、腹痛で動けなくなったり、生理痛が重くなったりすることもありました。当時は妊娠・出産も視野に入れていたため、産後もこの働き方を続けるのは難しいと判断。夫の仕事が転勤を伴うこともあり、いずれは退職せざるを得ないと考えていたことから、退職を決意しました。

ー 女性薬剤師にはキャリア形成期にライフイベントが重なることが多いですよね。

伊藤:私の場合も結婚は考えていたもののキャリア形成と両立して全てを計画などは全然できていませんでした。前職の退職時点では次の勤務先は決めておらず、引っ越し先が落ち着いた段階で転職サービスに登録しました。複数のサービスを利用する方法も検討しましたが、やり取りの負担を減らすため、引っ越し先での求人数が多そうな一社に絞りました。

ー 特定の1社に絞ったのですね。そこからはどういったやり取りで進んでいきましたか?

登録後は電話で希望条件のヒアリングを受け、勤務日数や就業開始時期、勤務エリア、希望業種などを具体的に伝えました。当初は「薬局未経験で派遣はあまりおすすめしない」と言われましたが、夫の転勤が多いことから派遣が最も適していると担当者と意見が一致。親身に対応してもらえたことが印象に残っています。

体調を考慮し、当初は週5フルタイムではなく短時間勤務を希望していました。土日休みも条件に入れたため、求人数は多くないと伝えられましたが、まずは希望を率直に伝えることにしました。その後、担当者との面談を経て求人を紹介していただきました。最初に提示された求人は希望から外れるものが多かったものの、1週間ほどで新たに希望条件に沿った案件を提案されました。薬局未経験でも受け入れ可能で、平日のみ勤務、中抜けなし、病院門前でこれまでの経歴を活かせそうな点が決め手でした。

ー 時短勤務希望でも1週間で求人を紹介されたのはすごいですね。薬局未経験だと思うのですが、選考では苦労しましたか?

伊藤:転職会社さんが頑張ってくれたんだと思います。運も良かったと感じますし、とても感謝していますね。派遣先との面接は非常にカジュアルで、あっさりしたものでした。(笑)書類準備はすべて担当者が行ってくれたため、自分で履歴書や職務経歴書を書く必要もなく、経歴や勤務時間の確認と制服サイズの調整などで終了。当日中に結果が出て、勤務開始が決まりました。もともと土曜勤務が条件に含まれていましたが、担当者が交渉してくれたことで、平日のみで調整していただけたのも大きな安心材料でしたね。

ー 転職して良かったですか?

伊藤:転職して派遣薬剤師として働き始めた後は生活リズムが整い、体調も改善しました。夜勤や休日出勤がなくなり、夫との時間を確保できるようになりました。家庭との両立がしやすくなっただけでなく、その後妊娠も判明し、転職してよかったと心から感じています。

転職を振り返ってみて

ー 自身の転職を振り返って、上手くいったと思う点はありますか?

伊藤:今回の転職でうまくいったと感じている点の1つは、転職エージェントを1社に絞ったことです。同時に複数社に登録して比較する方法もありますが、結果的に担当者とのやり取りがシンプルで、負担も少なく済みました。後から薬剤師仲間に聞いたところ、その会社は評判も良かったそうで、安心して任せられました。

ー 最初から1社だけと決めていたのですか?

伊藤:いえ、そんなことはなく、登録前に各社の求人数や扱う業種をある程度比較検討していました。そのうえで最も条件が合いそうな1社に絞ったため、やり取りを始めてからもスムーズに進められたと思います。

ー 沢山の担当とやり取りするのも大変という方も確かにいますね。担当者と関わる上で大事だったポイントなどあれば教えてください。

伊藤:はい。1番大事なのは希望条件の優先順位を明確にしていたことですかね。私の場合は「勤務時間や曜日」が最優先で、通勤距離はある程度妥協しました。生活リズムを整えやすい働き方を重視したことが、体調や家庭との両立につながったと感じています。さらに「薬局を経験しておきたい」という希望も明確に伝えました。病院勤務の案件紹介もありましたが、将来的な育児との両立を考えると、子どもが生まれる前に薬局勤務を経験しておきたいと考えたのです。

エージェントとのやり取りの中で良かったのは、自分の状況を細かく提示したことです。家庭状況やできる業務、逆にできないことも正直に伝えた結果、希望条件に合う案件を紹介していただけただけでなく、実際に働き始めてからの期待とのギャップも少なく済みました。

ー 参考になります。通勤距離を妥協すれば求人の母数も広がりそうで、人によっては良いアイデアですね。逆に転職での反省点などありますか?

伊藤:ありますね(笑)。未経験の薬局業務に飛び込んだこともあり、保険制度や加算に関する知識が不足していることを痛感しました。派遣先に任せきりにするのではなく、自分でも事前に学んでおけば、よりスムーズに適応できたと反省しています。この部分は転職に伴い、多かれ少なかれ生じる部分ではあるので、意識をよりもっておけば十分といった感じです。総じて、信頼できるエージェントを見つけられたこと、そして自分の希望や状況をしっかり伝えたことが成功の要因でした。今後もし転職を考えることがあれば、この経験を踏まえ、より計画的かつ自主的に動きたいと思います。

転職では優先順位を明確にすることが成功の鍵

ー 最後に、薬剤師の転職の成功の鍵をを教えてもらえますか?

伊藤:転職エージェントは「相談だけ」でも歓迎してくれる雰囲気でした。私自身はいつでも働ける状況で登録し、1か月ほどで就職先が決まりましたが、友人の中には長期間相談を続けていた人もいます。その友人は最終的に別のサービスで転職先を決めましたが、登録解除もスムーズで負担はなかったそうです。

病院勤務はやりがいが大きく、私自身も「まだ頑張れる」と思っていましたが、体調を崩して初めて限界に気づきました。今の職場に不満がなくても、定期的に働き方を見直すことは大切だと実感しています。転職活動を通じて「やっぱり今の仕事が合っている」と気づく人もいれば、新しい選択肢に出会える人もいます。

転職には勇気が必要ですが、薬剤師は資格がある分、働き方の選択肢は広い職業です。自分のライフスタイルに合った職場を探せるのは強みだと思います。働く場所や時間を選べることを前向きに捉え、自分らしいキャリアを築いていただければ幸いです。

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この記事を編集した人

転職に本当に必要な情報を届けるメディアというコンセプトで2024年に株式会社メディカルリンクの新規事業としてスタート。メディアを通じて今の自分に相応しい職場を見つけるサポートを行う。見やすく分かりやすいサイトデザインと徹底した取材・市場調査で転職を検討しているユーザーの満足度を上げる事をミッションに定める。

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